災害看護の定義は、機関や組織によって異なっています。例えば、日本災害看護学会による災害看護の定義は、
災害に関する看護独自の知識や技術を体系的にかつ柔軟に用いるとともに、他の専門分野と協力して、災害の及ぼす生命や健康生活への被害を極力少なくするための活動を展開すること
となっています。また、災害発生時に活動する「災害支援ナース」について日本看護協会は、
看護職能団体の一員として、被災した看護職の心身の負担を軽減し支えるよう努めるとともに、被災者が健康レベルを維持できるように、被災地で適切な医療・看護を提供する役割を担う
としています。
人々の生命や健康が災害から受ける影響をできる限り低減させるということは両者に共通しています。日本看護協会の災害支援ナースは、被災した看護師を支援対象にしていることが特徴かもしれません。しかし、災害に関した事柄は明確に触れられていません。これは災害が多様だからと言えます。そこで、例として日本で起きた大きな地震災害を挙げてみましょう。
近年の日本における地震災害
地震は、家屋の倒壊、火災、津波による浸水、浸水後の粉塵による空気汚染等、様々な形で生命を脅かします。地震によって壊された生活環境は、肺炎や喘息の増悪、慢性疾患の増悪、車中泊によるエコノミークラス症候群、感染症の蔓延による災害関連死を引き起こします。もちろん高齢者や妊婦は特に影響を受けることも想像に難くありません。その上で、日本における大きな地震災害を2つ挙げます。
阪神大震災
1995年1月17日の午前5時46分、淡路島北部を震源に「兵庫県南部地震」が発生しました。六甲・淡路島断層帯と呼ばれる活断層のずれで起きた直下型地震で、「阪神大震災」と呼ばれることが多いです。この震災で、淡路島北部から兵庫県西部、特に神戸市は大きな被害を受け、家屋の倒壊に巻き込まれたことによる圧死、建物の倒壊よって閉じ込められ、火災から逃げられず亡くなる方もいました。家屋の倒壊や火災で壊滅した地区もありました。また、神戸市街に密集して作られていた鉄道や高速道路などの交通網も大きな被害を受け、人の行き来や物流に支障が生じ、経済も大きな被害を受けました。
東日本大震災
2011年3月11日の14時46分に起きた「東北地方太平洋沖地震」は、北アメリカプレートと太平洋プレートの境界部分で生じた海溝型地震で、岩手県から茨城県までの南北500km、東西200kmの範囲で海底の岩盤が壊れました。これによって最大震度7の揺れが生じ、津波を発生させ、日本各地、特に東日本の太平洋沿岸に巨大な津波が押し寄せました。この津波は多くの人命を奪ったと同時に、発電所に被害を与え、避難命令により住み慣れた街を放棄しなければならない人も出ました。また、地震の揺れは広い範囲で液状化現象、停電、断水などをもたらし、「東日本大震災」と呼ばれています。
阪神大震災では、局地的かつ強い地震が都市部で起き、建物の崩壊、火災による地区の消失が特徴的でした。東日本大震災では、広範囲の津波により交通網が遮断され、都市が孤立無援の状態になり、街がどのような状況であるか、何が必要とされているかが把握されるまで、多くの時間を要しました。
また東日本大震災は、地方都市が抱えていた少子高齢化と人口減少、商店街や医療機関などの減少や統廃合など、復興の障壁として地域の衰退を露わにさせました。
このような、災害によって露呈する時代や地域の弱点を捉えることが災害における看護に必要だと感じます。もちろん、災害による生命や健康への影響を極力少なくすること、被災者の生活する力を高めるために環境調整を行うこと、刻々と変化するニーズに応じることが原則です。
災害の定義
日本には「災害対策基本法」という法律があります。この法律は1961年10月に制定されました。きっかけは伊勢湾台風による災害でした。
1959年9月26日、中心気圧929hPa、最大風速60m/s、東側に400km、西側に300kmの暴風圏を伴い、伊勢湾台風は和歌山県の潮岬付近に上陸しました。そして、愛知県と三重県の伊勢湾沿岸に大規模な高潮被害をもたらし、5000名を超える犠牲者を出しました。高潮による被害は非常に深刻で、全ての浸水が解消されたのは台風通過から半年以上経ってからでした。
この災害がきっかけで、災害発生時の対応、被災者支援、災害からの復興を一体的に実施する国の責務を明確化させ、災害対策基本法は制定されました。
この法律において災害は、
暴風、竜巻、豪雨、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象または、大規模な火事、もしくは爆発その他その及ぼす被害の程度において、これらに類する政令で定める原因により生ずる被害
とされています。
また、世界保健機関(WHO)は、
重大かつ急激な出来事による人間とそれを取り巻く環境との広範囲な破壊の結果、被災地域がその対応に非常な努力を必要とし、時には外部や国際的な援助を必要とするほどの大規模な非常事態
としています。
災害には、気象・地象・海象だけでなく、人為的な事故や事件も含まれています。それは、人間の心身と社会生活に重大な影響を与えるものとして災害は認識されているからだと思います。そして、災害が大規模である場合、自力で被害に抗うことは困難で、外部の助けが必要になります。ここを押さえると、災害が起きた時、どのような対応が必要かをイメージし易くなると思います。
災害看護とは?
災害看護は、災害の発生直後から復興完了における人々の命と生活を守るためにあります。災害現場、避難所、仮設住宅なども含めた人々が生きている場所で実践される看護であり、医療機関内に限定されません。そのため、生活の場における複雑なニーズに対し、責任ある問題解決能力が求められます。
特に、上に挙げた2つの地震災害でも分かるように、災害下における人々の状況は、被害の内容によって複雑になります。それは、数値で表現されるものではなく、生命や生活の質とも言える問題でもあります。したがって災害看護では、常に変化する被害状況を敏感にとらえること、そこから必要な知識や情報を選択して活用していくこと、困難に対して積極的かつ能動的に立ち向かうこと、周囲の人々と協調し合うことが必要です。
社会では、思いやりや倫理観に満ちた医療や福祉が望まれています。もちろん、看護に対しても同様で、知識や技術の習得を目指す向上心に加えて、豊かな人間性を有し、人々や社会の細かなニーズに応じることが求められます。災害看護を学ぶことによって、人と人との助け合い、命のかけがえのなさを改めて見直せると思います。
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