災害対策基本法について

災害看護

災害対策の基本になる災害対策基本法を取り上げます。

災害対策基本法

 災害対策基本法は、昭和34年に紀伊半島から東海地方にかけて大きな被害をもたらした伊勢湾台風を契機に、昭和36年11月に制定されました。この法の第1条で次のように示されています。

国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定める

では、具体的にどのような体制が敷かれているか見てみましょう。

 

市町村の役割

市町村長は、災害が起きた際、または災害が発生しようとしている時、災害が拡大しないよう、すみやかに応急措置を実施することになっています(同62条)。あまりに大きな災害が発生し、自分の自治体が機能しない状態になった時、市町村長は、他の市町村長に応援や代行を求めることもできます。(同67条)。

 

都道府県の役割

 都道府県は、市町村のバックアップ役となります。同4条に都道府県の役割として、

市町村及び指定地方公共機関が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助け、かつ、その総合調整を行う

とあります。また、市町村が機能できない時は、都道府県知事が市町村長の役割を、全部または一部を代わって実施しなければならず(同73条)、市町村と同じように、都道府県知事は、他の都道府県知事に応援要請ができます(同74条)。

 

国の役割

 国は、都道府県のバックアップ、または市町村や都道府県が機能できなくなった時の応急措置の代行です。

 原則的には、市町村が災害発生の最前線で対応することがポイントです。東日本大震災のような広域災害であっても、災害の影響は、個人一人ひとり、街の一つひとつに現れます。その対応は、最も身近な地域が担います。

 あまりに大きな災害が発生した時は、激甚災害の指定が行われます。これは、昭和37年9月に定められた「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」に基づくもので、全国規模で指定する「激甚災害指定基準による指定(通称:本激)」と、市町村単位で指定する「局地激甚災害規定基準による指定(通称:局激)」があります。指定を受けると、地方公共団体への国庫補助のかさ上げ、中小企業事業者への保証の特例など、財政面の支援が行われます。

 

災害と医療の関わり

法律ばかりで面白くないです。看護にどんな関係があるんですか?

ここからが本題です。もうしばらくお付き合いを。

災害対策の責任者の責務

 災害対策の責任者は、災害が発生してから遅滞なく、避難所の提供、安全良好な住環境の確保、食料、衣料の提供、保健医療の提供等を含めた生活環境の整備を行わなければなりません(同法86条の6)。

 また市町村長には、災害時に自力で避難することが困難な高齢者、障害者等の災害時要支援者を把握するための「避難行動要支援者名簿」を作成することが義務になっています(同法49条10)。この名簿は、災害が発生、または発生のおそれがある場合、避難支援者等に提供できるようになっています(同法49条の11の3)。つまり、普段からの備えがあってこそです。。

 

災害救助法

 大きな災害が発生した際には、「災害救助法」も関係してきます。この法律は、昭和21年の昭和南海地震をきっかけとし、翌22年に制定されました。この法では、被災者の救助に関して、医療の提供、避難施設などの設置、食料の支給、救援費用の分担などが定められています。

 医療に関しては、同法4条4で、災害によって医療機関が混乱し、被災地の住民が医療を受けられなくなった場合、応急的に医療を提供して被災者を保護すると示されています。また、同第7条では、都道府県知事等の命令で、医療、土木建築工事、輸送関係者を救助活動に従事させることができるように規定されています。

 ただし、原則として、災害救助法における医療は「救助」であり、細やかなケアの提供を行えるものではありませんが、被災した現場では、様々な場面で医療や看護の視点が必要になります。大けがを負って救出された方の対応は重要ですが、避難所で避難生活を続ける人々は、災害から受けたストレスや、生活環境の変化で体調を崩す方も多くいます。その結果、亡くなってしまう方もおり、これは「災害関連死」と呼ばれています。

 

災害関連死

 災害関連死は、災害の発生当初から数日の間に起き始めます。被災という非日常によって交感神経が緊張し、血圧の上昇や不眠が生じます。また、飲料水の不足による脱水によって心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高くなります。そして、数日後からは、エコノミークラス症候群の発生、慢性疾患がある方の症状の増悪も起こります。

 東日本大震災では、医療や介護の介入の遅れ、避難所の環境悪化、医療資源や人的資源の不足が原因による「PDD(preventable disaster death:防ぎ得た災害死)」で亡くなった方が多くいます。災害関連死を減らす取り組みとしては、

  1. 急性期医療へのアクセス確保と、災害拠点病院の機能維持。
  2. 要介護高齢者や障害者等、避難生活で体調を崩しやすい方への介入。
  3. 透析患者や在宅酸素療法といった、普段は在宅で過ごす方への支援。
  4. ケアに必要な物資の備蓄や供給体制。
  5. 水や電気といった生活に必要なインフラが途絶えた時への備え。

が挙げらます。もちろん、挙げるとキリがありません。

 こういった状況から看護師として考えなければならないことはいくつもあると思いますが、少なくとも、在宅医療で担う看護師であれば、どこにどんな人が生活していて、何が不足すると生命や生活に危機が迫るかを把握し、その情報をいつでも共有できるよう備えることが必要です。災害医療の拠点病院では、どのような状況で、どのような方が搬送されてくるか、そのためにはどのような体制を作っておかなければならないかを意識しておくことは必要になります。

災害というと非日常を想定しがちですが、何でもない日常をつぶさに診ることが災害発生時に最も必要です。

 

筆者のひとりごと

人々を命の危機から懸命に救う救命救急の現場は、ドキュメンタリーやドラマでいつくも取り上げられています。それを見て、自分のアイデンティティーを意識し、世の中に対する使命感を形作って、医療者への道を志すということはよくあります。災害救助や救命救急の痛ましい場面が伝わらないまま、憧れを抱くことに異議を唱える方々もいらっしゃいますが、医療職に関心を持ち、将来を担う人が誕生することは、歓迎していいと思います。

一方で、何でもない日常をつぶさに診るといった地味な積み重ねが脚光を浴びる場面は、もっと沢山あっても良いのではと、何となく思います。

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