災害看護イントロダクション

災害看護

災害看護って何だろう?

どういうことが災害看護で大切なの?

という方のために、これから災害看護に関するトピックを紹介していきたいと思います。

 

災害看護は、「災害時における看護」です。私たちの社会は災害に対して、災害が起きる前、災害発生中、復旧や復興の途上、という段階に応じた備えを行っています。これは、災害発生前に備えを行い、発生に対して対処し、終息後は次の災害に向けて教訓を見つけて備えるという、循環型の対応となっています。

 

災害サイクル

災害を循環的に捉えることを「災害サイクル」と呼び、

  1. 静穏期・準備期
  2. 超急性期
  3. 急性期
  4. 亜急性期
  5. 復旧復興期

の5つの段階があります。

それぞれの段階において、どの様な対策が行われ、そこに看護はどの様に関わっているかを通して、災害看護について理解を深めてみましょう。

 

防災と減災

災害サイクルについてお話しする前提として、「防災」と「減災」という2つの考え方を紹介します。

防災

 「災害を防ぐ」という意味で、災害を未然に防いだり、災害による被害をできる限り防いだりしよう、という考え方です。

 日本は、地震や台風による被害を度々経験してきました。その経験から、河川や堤防の整備、建物の耐震化など、私たちは洪水や地震が生活に影響を及ぼさないよう備えてきました。また、観測技術を発達させ、災害の兆候を察知することも目指されてきました。

 しかし、地震や台風の発生は防げませんし、回避することも現実的には不可能です。また東日本大震災では、想定を上回る津波が世界一の防潮堤を乗り越えたり、指定されていた避難場所を飲み込んだりするなど、これまで行ってきた防災では防げなかった被害が数多く生じました。発生の回避や規模の抑制ができない気象・地象・海象の現象を予測して防ごうという考え方が足元から壊されたと言えます。

減災

自然の強大さを認め、時に私たちを脅かす自然の中で生きるという発想から、災害の影響を軽減できる社会を目指すという考え方が「減災」です。

減災は防災を否定するものでは有りません。

例えば、煙草のポイ捨てで山林火災を防ぐことはできますし、省電力家電の普及を進めて電力供給に余裕を持たせることは、停電被害を回避する方法の1つです。

このような被害を防ぐ防災を行ったうえで、人間の力では抗えない天変地異から受ける影響を少なくしていくことが減災です。

 

災害サイクル

上に挙げた防災と減災の視点を踏まえながら、今後は災害看護について記事をアップしていきたいと思います。まず、災害看護を取り上げていく枠組みとして、「災害サイクル」を基にします。

静穏期・準備期

災害からの被害を最小限に抑えるため、防災計画を立てたり、教育や訓練を行ったりする時期です。災害に対する法律の整備も、ここに含めます。災害対策の基本となる「災害対策基本法」や、看護師を規定した「保健師助産師看護師法」に加えて、「医師法」や「消防法」など、災害に携わる職種や分野に関わる法律を紹介します。

超急性期

災害発生直後から72時間以内を指します。災害によって命の危機にかかわる状況に陥った時、72時間以内に救助されると命が助かることが多いと言われており、救命が最優先される時期になります。この時期では、「トリアージ」と「災害派遣医療チーム(DMAT)」を取り上げます。

急性期

災害発生から1週間以内を指します。この時期では、災害に対応する組織の迅速な確立が必要です。重傷者の対応、軽症者の処置、慢性疾患のある方の対応に加えて、避難生活で生じやすい健康被害の予防対策など、看護の役割がとても大きくなり始める時期だと言えます。

亜急性期

災害発生から1カ月以内を指します。被災直後の混乱は落ち着きますが、多くの人々に災害から受けたストレスや、先の見えない避難生活への不安で心身の不調が生じ始めたり、高齢者や障がい者などの日常的なケア必要な方々の対応が重要になったりし始めます。また、災害の種類によっては粉塵による環境悪化が起き、これに伴う健康被害への対応など、避難生活における健康管理が重要になります。

復旧復興期

災害発生から数年以内を指します。安定した生活を取り戻す時期で、同時に、次の災害に備える時期にもなります。

災害による被害からの回復に関して、「復旧」と「復興」という2つの言葉が使われます。復旧は壊れたものを元に戻すという意味で、復興は新たなものを創出するという意味があります。

災害から立ち直り、再度、生活を取り戻していく人々に向けた看護の関わりを紹介していきたいです。

 

それでは、次回から静穏期・準備期の災害看護についてお話していきます。

 

余談

筆者が記事を書きながら感じた事(偏見?)を余談として呟きます。

時代を経るにしたがい、人間観の変化により「減災」という発想が生まれたと感じます。

自然の猛威に晒され続けた人間は、科学技術を発達させて自然の仕組みを解明し、やがて災害をコントロールできると考えるようになったのではないかと思います。そして、人間や社会を科学で守ろうとしたのではないかと思います。

しかし、数多くの想定を超えた災害を目の当たりにして、自然をコントロールしようとするおこがましさに気づいたと同時に、様々な困難にぶつかりながらも、前向きに生きていく人間の強さに気づいたのかもしれません。近年では、困難から回復する力を「レジリエンス」と呼び、困難を乗り越える力として注目されています。

20世紀の半ばから、戦争や文明の発展などが原因で生じた社会の分断を解消しようとする動きが起きました。公民権運動やフェミニズム運動と呼ばれるものです。

これらの運動を、社会の中における多数派と少数派の争いと見なす場合もありますが、人間は生まれや立場や有り様に関係なく尊ぶに値する、という信念に支えられた運動でもあったと思います。そして、アドボケイトやエンパワメントと呼ばれる方法で、有りのままの人間が持つ強さをクローズアップし、異なる者同士が強さを見いだし合う、公平性と連帯性に基づく社会が主張されました。

災害に遭遇した人々は、とても大きな困難や絶望を感じていると思いますが、災害に遭遇した者にしか分からないこと、災害が発生している現場でしかできないこともあります。そういった、困難の中でも生きて、いつかそれを乗り越える人間の姿を災害看護から感じたいと思っています。

 

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